可愛い君

いつも君だけを想っているからね。






  ベッドの上






すっかり遅くなってしまった。


俺はまだ宴の続くパーティー会場から早々に退散すると、トシの待つ屋敷へと馬を走らせた。


古くから続く財閥の家に一人っ子として生まれた俺は、ガキの頃から退屈紛れになるこうしたパーティーには喜んで足を運んでいたものだったが、
それはある時期を境に、ただ時間ばかりを食う苦痛な儀式と化していた。


だって、屋敷にトシを残しているのだから。


一応親父の顔を立てて要人への挨拶回りには付き合ってやるが、それが終わればメインイベントである舞踏会を待たずして、俺はさっさと会場を
抜け出すのだった。



オヤジが毎月寄付金を贈る孤児院で初めてトシと出会ったのは、俺が15の時だった。

幼くして両親を亡くし、以後遠戚に預けられていたというトシは、口が利けないことからその家の人間と上手くやっていくことができず、
色々な場所を転々とした挙句にここへ辿り着いたのだという。


その過程で何かしらの傷を負ったのであろう、右目に眼帯をつけて無気力に壁にもたれ掛かったトシは、他の子供達とは一種違った雰囲気を漂わせ、俺は無意識のうちに
引き寄せられるようにトシの元へ歩を進めていた。



「よう。俺は近藤勲ってんだ。」



傍らにしゃがんで声を掛けると、トシは一瞬だけチラリと俺の方へ視線を動かした。

その手には、古びたウサギのぬいぐるみが握られていた。



「それ、可愛いな。」



手を伸ばすと、トシは怯えたようにそのぬいぐるみを胸に抱え込んだ。

ウサギの破れた左頬から綿が少し飛び出した。



「別に取ったりしねぇよ。」



手を引っ込めてニコリと笑いかけると、トシはゆっくりと身の緊張を解いた。



「そのウサギ・・・破れたままじゃ痛そうだな。」



言うと、トシは細い指ではみ出た綿を押し込んだ。



「そんな事しねーでも、うち来れば縫ってやるよ。」



トシが驚いたように視線を上げた。



「・・・ってゆーか、うちに住めば?」



その時俺は、一目見ただけでトシの事を気に入っていた。

どうせここへ来ることができるのが月に一度だけなら、いっそ一緒に暮してしまえばいいと思った。


トシは諾とも否ともつかない顔をしていたが、そっと手を握って立たせると、思いの外大人しく俺についてきた。



院長と歓談していた親父はトシを連れた俺の姿に一瞬ギョッとした表情を見せたが、俺がどうしてもと食い下がると渋々承諾した。

これだから金持ちの一人っ子は得だ。 俺は心の中で小さくガッツポーズをした。



*****



俺は馬を降り、駆け足で屋敷へ入った。

早すぎる帰宅だが、もう使用人たちもそんな俺の行動に驚かなくなっていた。



トシが来てから、もう5年も経つのだ。



「ただいま。待たせたな。」



息を弾ませて自室の扉を開けると、ランプの仄かな明かりの中ベッドに座ってぼんやりと壁に掛けられた絵画を眺めていたトシの顔が、ゆっくりと
俺に振り向いた。



「こんな暗くしてなくても、電気点ければいいのに。」



俺は明かりのスイッチを押し、上着を脱いでクローゼットのハンガーに吊るした。

クローゼットには俺の服とトシの服が半々に入っている。


トシに着せているのは女物の服だった。 いわゆるゴスロリファッションというやつ。


別に女装させる趣味はないが、あれこれと着せた中で一番似合っていたから着せているだけのこと。
家中の者は呆れた顔をするが、これを着せることでトシの可愛さがより引き立つなら、俺はそれでいいと思った。



「メシは? ちゃんと食ったか?」



ネクタイを解きながら問いかけると、トシは小さくこくんと頷いた。


一人で食事を摂らせるのは可哀想だったが、トシはパーティーには招かれざる人間なので仕方がない。



やっと堅苦しい服装から解放され、俺はベッドに寝転がった。

ふうっと大きく息をつくと、トシは心配そうに俺を覗き込んだ。



「ふふ。寂しかったか?」



俺は身を起こし、トシの白い頬に掌を重ねた。


トシは重ねられた手をチラリと見ると、その目をすっと細めた。



それは喜んでいる時の仕草だった。



口が利けないだけでなく表情も極端に少ないトシだが、5年も一緒に居ればその微妙な変化もすぐに分かる。


もっとも、それはトシ自身が俺に心を開いてくれているからこそ分かるものなのだが。




掌を添えたまま、ゆっくりとトシの体を押し倒した。


サラリと流れる前髪を掻き分け、額にキスを落としてやる。


そのまま唇にも口付けてやろうとずり下がると、そこにはウサギのガードがなされていて、俺は苦笑した。



そのウサギのぬいぐるみには、俺に似たたてがみが付いている。
俺が留守にしている間、トシが自分で縫い付けたものだった。


俺が居なくても寂しくないように。 俺をいつでも感じていられるように。


俺達が体を重ね始めたのもその頃からだった。 2年ほど前のことだ。



俺はウサギのガードを押しのけ、トシの唇にキスをした。

また目がすっと細まる。

何度かついばむように口付けてから唇を離すと、トシは赤らむ顔を隠すように再びウサギを持ち上げた。



「もうこれはダメ。」



俺はウサギを取り上げ、枕元のサイドボードに置いた。


手持ち無沙汰になったトシは前髪をいじりながら伏し目がちに視線を彷徨わせた。



(ここまでしたらもうやることは一つしかないんだけどな〜・・・)



それは分かっているであろうに、トシはいつもモジモジと可愛らしい仕草を見せる。



俺はリモコンで部屋の明かりを落とし、トシの服に手を掛けた。

本当は煌々とした明かりの中で綺麗な肌をじっくりと拝みたいのだが、トシが恥ずかしがるのでそれは泣く泣く諦めている。


着物の袷を開き、下に着ているブラウスのボタンを外す。
首を覆う皮製の首輪も外し、サイドボードにコトリと置いた。 別に戒めの意味はない、ただの飾りだからだ。


鎖骨の辺りに口付けながら、帯紐の代わりに巻いた飾り結びのリボンを解き、帯もゆるめる。
袴を模した短いスカートを捲り上げて太股を撫でると、トシは小さく息を漏らし始めた。



「・・・っ・・・ふ・・・ぅ・・・」



迫り来る快感に耐えようとするこの可愛い声は、俺しか聞くことができないものだ。


一枚ずつ衣服を脱がせ、手袋とヘッドドレスも外してサイドボードに置き、最後に右目を覆う眼帯も外し、まぶたに刻まれた小さな傷跡にそっと口付けた。


この傷をトシが気にしなければ、くりっとした瞳をいつも二ついっぺんに見られるんだけどなぁ・・・。


そんなことを考えながら俺も服を脱ぎ、肌を重ねる。


腹の辺りが触れ合うと、トシは待っていたとばかりに俺の背に腕を回し、筋肉質な胸元を自分の頬に引き寄せた。



普段から昼間はほとんど外出しっぱなしの俺だ。


いくら俺に模した人形を慰みに抱えているとしたって、トシには随分と寂しい思いをさせてしまっている。


そんなトシは、交情の前にいつもこうして俺を抱き寄せ、俺が確かに帰ってきたことを肌で感じるのだった。



「トシ・・・落ち着いたか?」



髪を撫でながら耳元で囁くと、トシはゆっくり体を離し、潤んだ瞳で俺を見上げた。



「トシは可愛いな・・・」



親指で長い睫毛に触れると、トシはその手を取り、人差し指と中指を口に咥えて柔らかい舌で舐め始めた。



「何だ、もう欲しいのか?」



からかうようにクスリと笑うと、トシは困ったように俺から目を逸らした。



「ゴメンゴメン、ちゃんとやるから・・・な?」



指を引き抜いてちゅ、と唇を吸うと、俺はその指をトシの後孔にあてがい、そのまま中へ滑り込ませた。



「っ・・・!」



ふるりと体を震わせ、トシが俺に抱きついてくる。


その熱い吐息を首筋に感じながら指を動かすと、それに合わせるように勃ち上がったトシのものが俺の下腹に擦り付けられた。



「トシ・・・」



腰を引き寄せてそこにも刺激を与えてやると、トシは首を仰け反らせて俺に快楽を告げた。



「ふ・・・ふぅ・・・っ・・・」



既に息も絶え絶えになっているトシから指を抜き、猛った俺のものを押し込むと、トシは小さく嬌声を上げて俺の胸に擦り寄ってきた。



「あっ!・・・ぁ・・・はぁ・・・」



トシはきっと喋るとものすごく可愛い声をしているんだろうな。
他の奴らには絶対聞かせてやらねーけど。



「はっ・・・ぅ・・・」



声を押し殺して喘ぐトシの固く瞑った目尻からつぅっと涙が零れ、俺はそれを舌で拭い取った。


俺との交情に泣くほど感じてくれているのが嬉しい。

ただ、嬉しさのあまり歯止めが利かなくなるとマズイのだけれど。 トシはあまり体が強くない。



内部を奥深く擦り上げながら前を握りこんで刺激してやると、トシはビクビクと体を震わせて達した。


その余韻の締めつけに誘われて俺も中に放出すると、トシの腕から力が抜け、その体はくったりとベッドに沈んだ。



*****



体を拭いて布団を掛けてやると、トシはまた俺の胸に寄り添ってきた。


猫のようにパッチリと目を開いて俺を見上げている。



「もう寝ろ。疲れただろう?」



激しい交情の余韻に赤みを帯びた頬を指の背で撫で、俺はベッドの脇に落ちていたブラウスを拾い上げ、トシに着せた。



「また明日出る前にはちゃんと起こしてやるから。な?」



無言で外出した日の夜は、トシは拗ねてさっさと不貞寝に走ってしまうので。



宥めるように髪を梳いてやると、トシは静かに目を閉じ、やがてすうすうと穏やかな寝息を立て始めた。



ふかふかのベッドに吸い込まれてしまいそうな華奢なトシをしっかりと抱き締めながら、


俺はしばしの休息にまぶたを下ろした。



 ←このイラストが前提でした。





(了)




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もはやゴスロリとか関係ねェし!!(笑)


あの・・・服装面でゴスロリ設定をちょっと拝借しただけで、
内容は単にいつも私が妄想しているものとなんら変わりゃしません。

お人形さんみたいな従順で健気なトシたんが好きで、それが書きたかっただけという。


大体時代設定もよくわからんし、いさおっちがトシたんを連れ帰るのも強引だし、
何もかもが中途半端な感じでゴメンナサイ。


そんな中でも変わらないのは2人の愛☆ってことで!!(←何うまいこと言った気になってるんだ・笑)