☆小説サンプル☆
ジリジリと音を立てて肌を焦がす日射しと、微塵も流動する気配を見せない泥のような熱気に全身を蝕まれる。
濃い黒髪に覆われた頭は目の前に広がる光景に霞を掛け、若く明るげな声が嫌と言うほど届く筈の耳も、同様に
フィルターでも取り付けられたが如く妙に知覚が鈍っていた。
ここは銀魂高校、体育祭のグラウンド。
自身の出場種目である百メートル走を終えた俺は、走った事による体温上昇以上の汗を手の甲で拭い取りながら
クラスの応援席へ戻ると、教室から運び出した鉄パイプと木板で出来たちゃちな椅子にどっかりと腰を下ろした。 (壱・陰より)
漸く午前中の全六種目を無事に終えて(しかもことごとく勝利を手にして)昼休みを迎え、俺は握り飯片手に
自販機で茶を買うと、先に体育館裏で待っているトシの元へ向かった。
折角気合を入れてキメた剣道着は熱戦の連続に早くも泥だらけになっており、これはトシが何やら文句を言って
きそうなものだな、などと一人勝手に想像し、ほくそ笑む。トシは何事も形から入るタイプで、服装だの行動だのを
いつも細かくチェックしてくるので。
*****
ペットボトルから手を離し、両手でその体を抱き寄せ、膝に乗せる。
「わっ・・・! ちょ、袴に零すトコだったろ?」
危うく胡坐をかいた膝がぶつかりそうになったコーヒー缶を持ち上げ、トシが口を尖らせる。
その尖らせた唇に隙を突いてチュッと口付けてやると、驚いたトシは缶を取り落とし、飛び散った飛沫が黒い袴に
吸い込まれた。
「あー! バカ、跳ねちまったじゃねェか!」
「いいじゃねェかそんなの、あとでまた買ってやるから・・・」
「そうじゃなくて袴・・・ちょっ!」
首筋に顔を埋めて鎖骨の辺りに口付けると、トシは両手を突っぱねて俺の腕の中でもがいた。
「こんな所で盛んなよ!」
「だってトシが落ち込んでるから精力つけてやろうと思って・・・」
「精力って・・・逆に削ぎ取られるだろうが。」
「大丈夫、別にヤる訳じゃねーから。イチャイチャするだけ。な?」
言いながら体操服の裾を持ち上げ、左手を差し入れて適度に筋肉のついた腰から背中を撫で上げる。
「う・・・やめろ・・・って、の・・・」
背を撫でながら開いた右手を前に滑り込ませて胸をまさぐると、トシは段々と憎まれ口を諦め、湿った吐息を
漏らし始めた。 (参・陽より)
選抜メンバーで色別対抗にパフォーマンスを見せる応援合戦を終えて出場種目に一段落つき、俺は皆に労いの言葉を
かけるや、駆け足で保健室へ向かった。
「トシ、足どうだ?」
ノックもせずにグラウンドから続く扉を開けて室内へ飛び込むと、ベッドに腰掛けて包帯を巻いた足を投げ出している
トシの傍らには何故か坂本と高杉も居て、俺は意外な組み合わせに頭に「?」を浮かべながら無造作にスニーカーを
脱ぎ捨てた。
「アレ? 先生まだ居たんですか?」
「おう近藤! いや帰ろうと思うちょったら丁度晋助が様子見に来よったき、三人でちくとお喋りしとったんじゃぁ。」
「高杉が?」
見ると、いまだ警戒している様子のトシの目の前で、腕を組んでパイプ椅子に悠然と腰を下ろした高杉が無愛想に俺を
振り返った。
「さっきはまた子のバカが変に挑発して悪かったからな。」
「お、おぅ・・・」
──なんだ。やっぱりそんなに悪い奴じゃねェじゃん、コイツ。 (伍・陽より)
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