その色も、香りも

紛うこと無き俺の花






  はなみのよるに   






「オイゴリラ、もう真っ暗あるヨ? 銀ちゃんまだ見つからないネ?」

「う〜む、そう言われても一体どこまで行っちまったもんなんだか見当がつかなくてなぁ・・・」



晴天の真昼に始めたはずだった花見の宴はお妙さんの一撃を食らってノビているうちにすっかりたけなわを終え、薄暗く、
肌寒くなった夕刻の風の冷たさに目を覚ました俺の目に映ったのは、あたり一面に転がる空の一升瓶やアルミ缶の類と、
それらと違わぬ体でゴザに寝転がって大いびきを掻いている隊士連中の姿だった。



「あれ? もうこんな時間? お妙さんは?」



あまりに長かった睡眠・・・もとい失神時間に上手く状況把握の出来なかった俺は、思わず傍らでゴミを片付けていた
新八君の腕を掴み、寝ぼけ眼のままで訊いた。



「あぁ、姉上ならついさっき帰りましたよ。もうすぐ店開く時間なんで。」

「あ? ・・・あぁ、そうか・・・」



スナックの菩薩となって消えてしまったお妙さんにがっくりと肩を落としながら、俺はとりあえず数少ないシラフであった
山崎と総悟(・・・と言っても正確には総悟は酒に強かっただけで相当量を飲んでいたが)に隊士達の世話を任せ、自分も
新八君と一緒になってゴミを拾いながら──ふと、この場にトシと銀時が居ないことに気が付いた。



「・・・あれ、トシと銀時も先に帰ったのか?」

「──いや、何も聞いてませんけど・・・どっか行っちゃったんですか?」

「あぁ、どうも見当たらないような・・・」

「二人共だいぶ飲んでたみたいだし、大方厠で寝ちゃったりしてるんじゃないですか?」



日頃からの破天荒な生活に免疫ができているのか、新八君は呆れたように笑っただけでそっけなく答えると、その事はさして
気にも留めない様子で宴会料理を堪能したのか満腹になって寝ていたチャイナ娘を起こしに掛かった。



「しかし心配だなぁ・・・ちょっとその辺探してくる。」

「あ、スイマセン。ウチの大将も見つけたらついでにお願いしますー。」

「おぅ、任せろ!」



・・・とは言ってみたものの、花見会場である広場のどこを探しても、二人の姿は見当たらなかった。

公衆厠も草むらも木陰も、人の酔い潰れていそうな所は全て当たってみたけれどことごとく不毛に終わり、どうやら広場内には
居そうもないと判断した俺は一旦皆の元へ戻り、総悟ら真選組は先に屯所へ帰し、新八君とチャイナ娘、そして定春とかいう
謎の白い巨犬のみを連れて万事屋へ送りがてらかぶき町方面を探すことにした。


──そして、今に至るというわけで。



「すいません近藤さん、わざわざこっちの方まで来てもらっちゃって・・・」

「何ペコペコしてるネ新八ィ。ケーサツが人探しするのは当然アル。」

「コラ神楽ちゃん、そういう事言わないの!」

「いやいや新八君、チャイナさんの言う通りだ。それにトシも一緒の事だから尚更放っておけないしなぁ・・・」



ポリポリと頭を掻きながら答えると、犬の背に乗って二、三歩先を歩いていたチャイナ娘が足を止め、クルリと振り返って両手で
俺の胸倉を掴んだ。



「何ネその言い方は! テメッマヨが一緒じゃなきゃ銀ちゃんの事なんてどうでもいいってか!? あァン?」

「わわっ、神楽ちゃん何してんのォォォ!!」

「ス、スマン・・・ッ! そういう意味じゃ・・・」



驚くほどの怪力に半ば体を持ち上げられながら言い訳の言葉を探していると、チャイナ娘の肩越しに何やら不審な物が目に付いた。

道行く人々がチラチラ振り返るそれ──背の高い箱のようなものはどうやら自販機のようで、その屋根部分には何か黒い影──人の
ような塊が見え、心なしか見覚えのあるその人影に、俺は眉を寄せて目をすがめた。



「──・・・トシ?」

「ん? マヨか?」



ボソリと呟くと、途端に胸倉を掴む手を離したチャイナ娘はすぐさま俺の見ていた方向へ犬を走らせた。



「・・・銀ちゃ〜ん! 全く何してるネ?」

「トシィ〜、お前こんな所に居たのか。」



チャイナ娘の後を追って自販機に駆け寄ると、受取口に首を突っ込んだ体勢の銀時と自販機の屋根の上に寝そべった体勢のトシという
異様な図が目に飛び込み、背後で新八君が大きな溜め息をつくのが聞こえた。



「銀ちゃんこんな所で尻突き出してたら変態にカマ掘られちゃうヨ。 定春ぅー!」



チャイナ娘が銀時の腰を掴んで頭を受取口から引き摺り出すと、定春と呼ばれた犬が二人に近付いて身を屈め、その背中に銀時の体を
乗せた。



「ホラ、トシも帰るぞ〜。」



続いて俺もトシを大事に抱え下ろして背中におぶうと、その体は「ぅ・・・」と小さく身じろぎ、寝息から濃い酒の香りがした。



「オイゴリラ、銀ちゃん動かないヨ! 銀ちゃんアル中になったらマヨのせいだかんな!」



酔いで真っ赤に染まったトシの寝顔をぼんやりと眺めていると、銀時の天然パーマ頭をもしゃもしゃと揺さぶっていたチャイナ娘が俺を
振り返り、非難の語を浴びせながら閉じた傘の先を喉元に突きつけてきた。



「ぐっ・・・! だ、だから悪かった・・・て! ほら、トシもこんな状態だしおあいこって事で・・・な?」

「おあいこォ? そんなん知らないネ。何アルかさっきからマヨの事ばっかり・・・もう勝手にするヨロシ。行くヨ、定春」



喉を狙っていた傘の先を胸元まで下ろして一度だけ小突くと、チャイナ娘は犬の背にヒョイと飛び乗って俺達に背を向けて歩き出した。



「あっ神楽ちゃん待って・・・! どうもお世話になりました。」

「あ、いや・・・こっちこそ大した役にも立てなくて・・・」

「そんな事ないですよ。神楽ちゃんもあれで内心は結構喜んでるんですよ、きっと。それじゃ・・・」



丁寧に何度も頭を下げて新八君も去り、俺は力が抜けてずり落ち気味になったトシの体を背負い直し、万事屋とは反対方向の屯所へと踵を
返した。



(チャイナさんにはちと悪い事しちまったかな・・・)



新八君はあのように言ってくれたけれども、あいつらにとって銀時は親代わりのようなものであるのに、俺はひたすらにトシの安否に夢中に
なるばかりで、大人気なくもあいつらの事にまで気を払ってやれなかった。

共に大切な存在である事に変わりは無いものを・・・。


しかし、今の俺にはこのぐでんぐでんになったトシを一刻も早く暖かい布団に寝かせてやることの方が何よりも重要で、雑踏を抜ける俺の足は
自然と速まっていった。




*****




「あ、お帰りなさいー。副長見つかったんですね!」

「チッ、生きてたのか・・・ゴミだめにでも落っこってたんですかィ?」



いつもと変わらぬ反応の二人に出迎えられ、俺は山崎から他の隊士達の様子を聞きつつ、意識の無いトシにここぞとばかりにちょっかいを
出そうとする総悟を制して居室へ向かった。


渡り廊下を抜けて居室の前、中庭に面した廊下に入ると、ふと闇の中に浮かぶ桜の木が目に留まり、俺は足を止めた。

花見のあった広場までとはいかないものの屯所の中庭にも何本か桜の木は植わっており、満開の期を超えたその花々は夜風に枝が揺れる度、
その淡い桜色の花びらを雪の如くはらはらと散らせていた。



「・・・きれいだな。」



幻想的な光景に見惚れていると、背後から幾分酒焼けにかすれたトシの声が届いた。



「おぅ、起きてたのか?」

「・・・今起きた。」



いまだ俺の背にくったりと体重を預けたままのトシは、酔いで充血した目を半分ほど開き、じっと桜を見つめていた。



「・・・やっと見れたな。」

「え?」

「桜・・・一緒に。」



言って、体の前にぶらりと下がっていたトシの腕が、俺を引き寄せるようにきゅ、と組まれた。



「アンタ・・・初っ端からやられちまってノビてたから。」

「あ〜・・・スマンスマン。」



はは、と気まずさを隠すように笑うと、しかしトシは尚も熱い体を俺の背に密着させた。



「・・・トシ?」

「・・・なんで・・・」



熱い吐息が、耳に掛かる。



「なんで・・・アンタは、あの女の事ばっか・・・」



その声は更にかすれ、うつむきざまに鼻先がうなじを擦った。



「アンタがやられちまって・・・悔しくて・・・寂しくて・・・」



震える指先が、思いを訴えるように俺の着物をぐしゃりと掴む。

俺に置いて行かれた悲しみに、憂いの表情で銀時と共に酒をあおるトシの姿を想像し、俺は胸が鈍く痛んだ。



「トシ・・・ごめんな。俺、つい浮かれちまって・・・」



花びらは、まだ視界の隅で白く舞っている。



「目ェ覚ましたら、トシが居なくて・・・それに気付いて初めて、俺、トシの事が気に掛かって、必死んなって探して・・・」



風に運ばれてくるくると地面を滑り、立ち尽くす俺の足元に、ひとひら散った。



「ホント・・・俺、酷い事したな。」



すまなくって、ただ足元の花びらを見つめていると、額を押し付けてうつむいていたトシの頭がゆっくりと持ち上がり、顎が左肩に預けられた。



「・・・悪ィ、心配掛けてた。」

「いや、そんな・・・」

「良かった。 ・・・良かった、俺を見つけてくれて。」



そっとトシの顔を覗き見ると、涙の滲んだ長い睫毛の下、口元が微かに笑みを湛えていた。



「トシ・・・綺麗だな。」



囁くように告げると、トシは瞼を上げ、不思議そうな眼差しでしばらく俺を見つめてから、中庭へと視線を移した。



「あぁ・・・夜桜ってのもなかなか良いもんだな。」

「桜じゃねェよ。」



桜色したトシの事だ。


低い声で呟くと、緩んでいたトシの手が再び強く着物を掴んだ。



「・・・バカじゃねーの・・・?」

「あぁ、どうしよーもないバカだ。」



トシを背負い直し、一歩、二歩とゆっくり廊下を歩み出す。



「だから、もうトシの傍を離れないから・・・」



居室の障子を開けると既に布団が敷かれており、俺は掛け布団を剥いでトシの体を横たえた。



「・・・だから、トシも・・・」



熱を帯びた頬を撫でて



「俺の事、ずっと見ててくれな。」



紅い唇に、口付ける。



「ん・・・」



絡まる舌から伝染する酒の香りに、心地良く酔って



「・・・うん・・・」



唇を離すと、とろりとした瞳で頷く桜色の君を、今夜はきつく抱いて眠りたい。



散らせぬように。 飛ばさせぬように。





(了)




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近土を書いていると、お妙さんの位置付けに困りますよね。
同人をやっていると、銀さんとトシを一緒に居させること=アッチの関係を連想せざるを得ない感じで困りますよね。

・・・そういうお話。(違)


私は酔ってヘロヘロになって素直に感情を顕わにするトシたんが好きなんだと思いました。(作文)
そしてそんなトシたんを可愛い可愛いと甲斐甲斐しく介抱してあげるいさおっちも好きなんだと思いました。


ついでに最近銀神にもハマっているので「銀ちゃん大好き」な神楽を入れてみたり。
神楽のセリフを考えるのは楽しいのに新八のセリフはどうも不自然になっちゃったり。


要は私の萌え要素をひたすらに詰め込んだ実験的小説ということで。
(↑「実験的」とか何か格好いい表現を使えばごまかせると思っているこの感じ)


あ、ちなみにタイトルは「あらよる」を意識しつつも一切関連ござーませんでした。