今宵も、愛しいあの人の部屋へ忍んでゆくこの俺を、

月は嘲笑いながら眺めているのだろうか。






  秘






深夜0時。大方の隊士が寝付いた屯所を、俺は近藤さんの部屋へ向かって歩いていた。
「向かって歩く」・・・なんて言っても、近藤さんの部屋は俺の部屋のすぐ隣、その距離は僅か10メートルも無い。
しかし、愛しい人を思って高鳴る俺の胸は、そのたった5・6歩の足取りにさえも、一歩ごとに深呼吸を必要とさせるような重みを持たせた。



幹部隊士の居室は、平隊士達のそれとは渡り廊下を挟んでやや離れた場所に纏まっている。
しかもとりわけ局長・副長の居室は、その幹部棟の奥の奥、特別の用事でもない限りは滅多に人の来ることの無い場所に位置している。
そのため、俺達の部屋では密談をしようが仕事をサボって昼寝をしようが、極端に言えば恋人同士の二人が密やかな営みを持とうが、
周りにさほど気付かれる事は無い。



けれど、こんなにも明るい月の光に照らされると、自分がこうして近藤さんの部屋に忍び込もうとすることが、ひどく後ろめたく、はばかられることのように感ぜられて、
俺は一人、物言わぬ月を睨みつけると、音もさせずに障子を横へ引いた。



「ん? おぉ、トシか。」

「近藤さん・・・、まだ起きてたのか?」



てっきり近藤さんは既に寝入ってしまったであろうと踏んでいた俺は、予想外の状況にすっかり拍子抜けしてしまい、
ほんの数秒前とは打って変わってやや乱暴に障子を閉めると、ぼんやりとした行灯の明かりの中、文机に向かっている近藤さんの元へ歩を進めた。



「何だ、本読んでたのか?」

「ああ、だ・・・『だ・びん・・・ち・・・こーど』?とかいう・・・」

「『ダ・ヴィンチ・コード』ォ?」



俺は近藤さんの手から分厚い文庫本を取り上げると、傍らに腰を下ろしてパラパラとページを繰った。



「なんか今流行ってるらしくてさぁ、総悟が貸してくれた。」

「総悟か・・・、アイツは流行りモンには取り敢えず手ェ出すタイプだからな・・・」

「ああ、俺は興味無かったんだけどさ、総悟の奴に『俺はさっぱり理解できなかったんで、近藤さん代わりに読んで内容教えて下せぇ。』とか言われちゃって・・・。
そんな事言われちゃあ読まないわけにはいかないだろぅ?」

「・・・近藤さん、アンタそりゃからかわれてんだよ。」



俺は溜め息混じりに本を置くと、おもむろに胡坐をかいた近藤さんの膝に乗っかった。



「・・・トシ?」

「近藤さんにはこんな堅い本似合わねぇよ・・・」



呟いて、俺はのしかかるように近藤さんの唇に自分の唇を重ねた。



「ん・・・っ!」



初めこそ俺の体重に仰け反って背後に手をついたものの、近藤さんは次第に角度を深めながら俺のキスに応え、気が付くと唇が離れた俺の頭は、近藤さんの胸元に
すっぽりと抱え込まれていた。



「どうしたんだよ・・・嫉妬か?」



ふふん、と鼻を鳴らし、呆れつつも優しく髪を撫でてくれる近藤さんが、堪らなく愛しい。



「・・・ごめん。」

「『ごめん』って・・・、あんなに激しいキスしてた割には随分あっさりしてんじゃねぇか?」



柔らかな髪の毛をクルクルと指に巻きつけながら、近藤さんが俺の顔を覗き込んだ。
悪戯っぽく笑う顔が暗がりの中でもはっきり見て取れ、その眩しさになんだか気恥ずかしくなった俺は、持ち上げかけた頭を再び愛しい人の胸にうずめた。



「・・・激しいのは近藤さんの方だろ。」



照れ隠しにぶっきらぼうな言葉を投げつけると、今度は近藤さんの大きな両手が俺の顔を挟むようにして上向かせた。



「だってトシの口が気持ち良かったんだもん。」



子供のような口調で紡がれる言い訳とは裏腹に、近藤さんの指は艶かしい動きで俺の唇をなぞっていた。



「もっかいキスしていい?」

「ん・・・んっ!」



答えを出す前に、唇は塞がれた。



「んぅ・・・っは・・・」



唾液の絡む水音が響く中、呼吸もままならなくて崩れそうになる体を近藤さんの腕にすっかり預けてしまうと、俺はしばらく「されるがまま」の心地良さにひたっていた。




*****




「・・・そういえばトシ、何しに来たの?」



暖かい布団の中、俺は近藤さんに髪を梳かれながら早くもうとうとし始めていた。



「何か用があったんじゃないのか?」

「・・・別に・・・なんでもねー。 もうどうだっていいよ・・・」



ゴソゴソと近藤さんの体に抱きつくと、彼はもうそれ以上の詮索をやめ、満足そうに笑みを漏らしながら俺を抱き返してくれた。

本当はあの時、もし近藤さんが起きていなかったら、無理やりにでも布団にもぐり込んで抱いてもらうつもりだった。
わけもなく体が疼いて、俺を愛してくれる彼の熱情が欲しくて仕方が無かった。


けれど、今はただこの背を抱く腕の、引き寄せるように絡まる足の、額に掛かる吐息の、それら全てのぬくもりが、体の芯に取り付いた疼きを溶かしてくれるようだった。



もう少し、このままこのぬくもりを享受していよう。
あの時の無駄に強気で欲張りだった俺は、そっと胸の中に仕舞っておこう。



(了)


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ハイ、意味がわからなーい。(爆)

なんか土方さんが乙女になってますね。 それは私の趣味です。(笑)
土方さんは猫のように近藤さんにニャンニャン取り付いて、近藤さんはそれを「おーよしよし♪」とか言って
むちゃくちゃに愛してあげればいいと思います。(←ご主人様とペット!?・笑)

ちなみに私、「ダ・ヴィンチ・コード」については毛ほども知りません。 文庫化してたっけ?それすらわからなーい。
ものの順序で入れただけです。ハイ、すいまっせーん。

これは初めて完結させた近土小説なのですが、まぁ私の書く小説はこんなゲロラブな感じなんだ、と御理解いただければ幸いです。