好きなのに、苦しい。
好きだから、苦しい。
昼の闇 (前編)
障子を抜けて光が煌々と射し込む部屋で、ただ、激しくトシの体を貪った。
事の経緯なんて覚えちゃいない。理由なんて知らない。
目の前にトシが居て、俺を受け入れる事に慣れた体があって、片手で突けば簡単に倒れて、だから思いのままに、トシを抱いたのだ。
「んっ・・・は・・・は・・・あっ・・・!」
甲高い声が上がる。
トシはまた達したのだろうか。 もう何も分からなかった。
涙交じりの短い吐息も、垂れるほどに汗を滲ませる背中も、下腹に触れる濡れた感覚も、俺を包み込む柔らかな肉も、ただ、全てが熱かった。
激しい抜き挿しを繰り返していると、トシはまた一際大きな喘ぎ声を上げ、震える手で俺の背中に爪を立てた。
俺もトシの中に欲望を吐き出してしまうと、ずっと掻き抱き続けていたその上体をやっと畳の上に解放した。
「ふ・・・ふぅ・・・ぅ・・・」
こめかみを伝う涙を親指の腹でぐいと拭ってやり、俺は苦しげに呼吸を紡ぐ唇に噛み付くようなキスを与えた。
「んっ・・・! んぅ・・・はっ・・・ぁ・・・ん・・・」
トシの中に埋め込んだままのモノが、途端にぎゅっと締め付けられるのを感じた俺は、深い口付けをそのままに緩くトシの体を突き上げた。
「んっ・・・ふぁ・・・やっ・・・! ん・・・んぅ・・・」
抵抗の言葉は、唇で塞いでやった。
口角から唾液が零れるほどのキスを仕舞えて、俺は身を起こし、すっかり力の抜け切ってしまっているトシの腰を持ち上げた。
硬くいきり勃ったモノを奥まで深く突き入れると、その身は反射的にビクリとおののき、苦しさから逃れるように後頭部がざり、と畳を擦った。
「あ・・・」
不安げな双眸が、俺を見詰めた。
「何?」
訊きながら、しかし答える間も与えず俺は腰を前後に揺すった。
「あっ、あ、あ、あ・・・」
トシの目は、もう俺を映してはいなかっただろう。
手はぐしゃぐしゃになった着物の端を手繰り、足は空を掻いては畳を擦り、喉は律動に合わせて壊れたように喘ぎを漏らし、頬は過ぎる興奮に紅く染まり、
目は・・・充血しきって力なく開かれたその目は、ただ、音も無く涙を零し続けていた。
そんな姿を目に入れながらなお、俺は動きを止めなかった。
抱き寄せもせず、愛の言葉を囁きもせず、無心にトシを強姦していた。
漸くその中へ熱を注ぎ込むと、トシは俺に応えるように僅かに背を反らせ、その腹に白い液を飛び散らせた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
懸命に上下するトシの胸が、痛かった。
ぼんやりと空を見詰める虚ろな瞳が、痛かった。
散々放出した白濁液に汚れた腹が、痛かった。
激しい絶頂の余韻にいまだ小さく痙攣を繰り返す足が、痛かった。
「トシ。」
小さく呟くと、焦点の定まらなかった黒目が、俺を探すように左右に動いた。
そんな健気な仕草ですら今は痛くて、俺はトシの視界に入らないように小さく身をかがめた。
「ん・・・こんど・・・さ・・・」
喘ぎ過ぎてかすれた声が、俺を探して彷徨っている。
「トシ。」
また呟くと、今度は頭ごと左右に視線が動いた。
それを見遣りながら、俺は問いかけた。
「こんな俺は、嫌いか?」
トシの動きが止まった。
酷い事を言っている、と思った。
トシが俺を愛しているのを知りながら、俺が居ないと生きていけないのを知りながら、トシが俺を嫌うはずがないという前提に甘えて、
はなから一つの答えに導かせて、自己を正当化させようとして、脅している。
「・・・ううん、嫌いじゃ・・・ない・・・」
望み通りの答えだ。
視線はまだ、俺を探している。 「好きだ」と言えば、俺が姿を見せると期待しているのだろうか。
「こんど・・・さん・・・」
涙声になっている。 俺を探している。
もういっそこのまま消えてしまいたかった。
ボロボロになって動けなくなっているトシを捨て置いて、どこかへ逃げてしまいたかった。
分かっている。俺の帰る場所は、トシの元でしかないと。
トシは決して俺を非難したりはしないだろう。優しい奴だから、明日も、明後日も、これからずっと、こんな俺を笑って受け入れてくれるだろう。
けれど、その優しさも、今は苦しい。
「近藤さん・・・」
声にふと顔を上げると、トシと視線がかち合った。
俺を見つけたその表情は微笑を湛え、あまりに穏やかで、俺はやりきれない哀しさに、自らの両目を塞いだ。
「近藤さん?」
やめろ。
「・・・気持ち・・・良かったぞ?」
そんな言葉聞きたくない。
「別に怒ってねーから・・・」
「何でだよ!」
思わず目を開いて叫ぶと、半分身を起こしかけたトシが、きょとんとした表情で俺を見ていた。
「何で怒らねーんだよ!」
「え・・・」
「こんな真っ昼間に、仕事の用で入ってきたお前をいきなり押し倒したんだぞ? 何も言わずに。おかしいと思わねーのかよ?」
「で・・・でも、俺は近藤さんが好きだから・・・」
「好きだったら何してもいいのかよ!?」
「っ・・・」
トシは口を一文字に引き結び、何も言わなかった。
「・・・あぁ、悪ィ。今のはトシの方が言いたい台詞だよな。・・・あー、クソ、何かもう訳分かんねぇ・・・」
頭を掻きむしりながらトシの顔を覗き見ようとしたけれど、うつむいた顔には長い前髪が掛かり、その表情を隠してしまっていた。
「ちょっと外行って頭冷やしてくるわ。」
俺は着崩れを直しながら立ち上がると、障子に手を掛けた。
「近藤さん。」
振り向くと、トシはうつむいたまま、口だけを動かしていた。
「近藤さんは、俺の事好きじゃねーの?」
「好きだよ。」
「じゃあいいじゃねーか。・・・と・・・俺は、思う。」
「・・・そうか。でも・・・俺は、苦しい。」
言い捨てて、俺は部屋を出た。
どこまで身勝手なんだよ。やりたいだけやって、言いたいだけ言って、トシに意見を求めておきながら、答えたところで聞きもしなくて、
よくもそれで「好き」だなんて言えたもんだ。そんな資格ありゃしねーよ。
自分に吐き捨てたその言葉は、みんなトシに言ってもらいたかった言葉だった。
(続)
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・・・え〜、「目指すはどエロ!」で始めたはずなのに、随分暗い話になってしまったもんだ・・・。(汗)
後編はもっと優しさや希望のある話にしたいなぁ。まだ考えてないけど。
タイトルはなかなか決まらなかったのですが、まぁ読んで字のごとく。
「闇」はいろんな意味で「闇」だったり。
あ、冒頭で近藤さんが「事の経緯なんて覚えちゃいない」とか言いながら後でちゃんと「仕事の用で〜」とか語っているのは、
「ヤッている間は夢中で考えている余裕が無かった」という解釈で一つ。 分かりにくくてゴメンなさい。書いてる本人もよく分かってません。(こら)
あ、あと近藤さんは別に「M」というわけではないので悪しからず。(←雰囲気ぶち壊し)