軟弱な奴だと言われてもいいから

やっぱりあなたに居て欲しい






  その存在、恋しくて   (後編)






風呂から上がって居室の明かりを点けると、座椅子の上の携帯が着信を知らせるランプを点滅させていた。

画面を開いて確認するとそれはメール着信で、差出人の「近藤勲」の文字に、俺は一瞬ドキリと胸を高鳴らせ、しゃがみ込んだまま
そのメールを開いた。



『今日の晩飯♪(^▽^)』



たった一行。
その下に添付された画像ファイルを開くと、画面いっぱいに色とりどりの豪勢な懐石料理の写真が広がった。



「っ!・・・バッカ・・・」



お偉方の目の前で妙な電子音を響かせながら夢中になって料理の写真を撮るその人の姿を想像し、俺は座椅子にへたり込んだ。
威厳を見せて真選組の株を上げる絶好の機会だというのにあの人は・・・。



『貧乏人じゃあるめーしそんなん撮ってんなよ。もっとどっしり構えてろ』



ぶっきらぼうな言葉で返信を送り、しかし無理もないことかな、とふと思った。
実際貧乏道場での不遇な時代が長かった俺達だ。いまだにこのような豪勢な待遇を受けると戸惑いが否めないのが本音であって。


・・・なんてぼんやり考えていると、すぐにまたメールが届いた。
もう接待を終えてのんびりくつろいででもいたのだろうか。



『だって俺だけこんな高そうなメシ食うなんて心苦しくて・・・(>_<)』



いい年した男がいちいち顔文字なんて付けんじゃねーよ。

俺はフウッと溜め息を漏らし、座椅子の背もたれに寄り掛かって返信の言葉を探した。



『そんな小さい事気にしねーで、ゆっくり楽しんでくりゃいいんだよ』

『楽しむ・・・っつったって、親しく話ができるような顔見知りはとっつぁんぐれぇしか居ねーし・・・( ̄ε ̄)』



そりゃあ確かに道理だが。

返信の早さからみると、そのとっつぁんとさえも今は一緒に居ないのだろう。

遠くの宿で一人寂しく俺からの返信を待つその人の姿を思うと、しんみりと切なくなった。



(あの人は大勢でワイワイ過ごすのが好きだからなぁ・・・)



そのせいか、真選組は何かあればすぐ宴会を開くことが多い。
もっとも、あの人は下戸だから放っておくと真っ先に酔いつぶれてしまうけれど。



(皆の写真でも送りゃあ喜ぶかな・・・?)



天井を見つめながらそんなことを考え、しかし先刻派手にキレて広間を飛び出した後で、どんな顔で皆に話を持ちかければいいのだと、
すぐにその案は却下した。



(・・・じゃ、俺の写真でも送るか。)



と言っても流石に顔を撮るのは気恥ずかしく、俺は羽織の下に纏った柄入りの浴衣の腕の辺りを撮り、短いキャプションを付けて送った。



『今夜の寝間着』



何の役にも立たない情報だけれど。



(こんなんじゃ返信しようがねェか・・・?)



携帯を机に置き、俺はもう一度昼間の文書作成に取り掛かろうかとノートパソコンに触れ、・・・やはり返信が気になり、煙草に火を
点してその小さな機械をじっと見つめた。


しばらくしてブゥン、と着信を知らせるバイブが机を打ち、その振動も止まぬうちに、俺は画面を開いた。



『今夜の俺の寝間着・・・☆(´∀`)』



また添付ファイルがある。

開くと、そこには布団の上に広げられた一枚の褌が写っていた。



「ブッ!」



思わず座椅子から飛び起き、俺は危うく足の上に火の点いた煙草を落とすところだった。


何を考えているんだ。そんな格好を人に見られたらそれこそ一巻の終わりというものだ。

早まった真似をするな、と慌てて返信ボタンに指を伸ばすと、手の中で携帯が震え、画面にメールの着信を告げる紙飛行機の絵が
現れた。



『・・・な〜んて冗談冗談☆ 驚いた〜?(`ー´)』



クソ、初めから用意してやがったんだな。


まんまと踊らされた俺は脱力して携帯を投げ出そうとし、しかしまたも添付ファイルがあることに気付いた。



「っ・・・!」



開いて、俺は弾かれたように画面から目を逸らした。


そこに写っていたのは頬の横でピースサインを作り、満面の笑みを浮かべた近藤さんの顔だったので。



(こんなん・・・眩しすぎてまともに見れねェよ・・・)



顔に血が上ってくるのを感じた。


あの人の笑顔には・・・弱い。
あれであの人に惚れるなという方が無理というもので。


いつかのお妙とかいう女の話ではないけれど、俺は近藤さんの笑顔を守りたくて、今こうして生きているのかも知れない。

あの人から笑顔が失われる事ほど、俺にとって恐ろしいものは無くて。



(・・・良かった。)



一人ぼっちで沈んでいなくて。

俺に構うことで、笑顔になってくれて。


しみじみと感慨に浸っていると、再び手の中で携帯が震えた。



『会いたい。』



字だけの短いそのメールに、俺は携帯を握りしめた。


差出人はやはり近藤さんで。 文末の「。」に、言葉にできない感情が宿っているように思われて。



(俺もだよ・・・)



会いてェよ、アンタに。


夜の長さを呪うほどに。

輝く月を撃ち落してやりたいほどに。


震える指先で、ボタンを辿った。



『明日寝坊しねぇようにもう寝ろ。そんでさっさと帰ってこいよ。』



あの人のように、素直に思いは言えないけれど。



『わかった。トシも一日お疲れさんだったな。おやすみ。』



また「。」かよ。 さっきまでのふざけた顔文字はどこ行ったんだよ。



『おやすみ(-_-)y-゜゜』



お返しとばかりに顔文字を付けて送ってやった。


俺が作ったんじゃない。
近藤さんが「この顔文字トシみたいだな」なんて気に入って、「トシ」と変換したら出てくるように勝手に辞書登録していったやつだ。

あの人とお揃いで。


それでも今まで使ったことは無かったけれど、今日ぐらいはいいだろ。


俺の顔写真代わりに。




*****




「副長ー! 局長お戻りになられましたよー!」

「おーう。」



翌朝、玄関から届いた山崎の声に、俺は寝間着のまま居室を出た。

昨夜はついついあの人の事を思ってなかなか寝られず、結局無駄に夜更かしをして俺の方が寝坊をし、朝飯も食べ損ねてしまった。



「あっ、副長、おはようございます!」

「おはようございます!」

「・・・おー。」



廊下を歩くと、俺に向けられる皆の視線が心なしか生温かい。
これはやはり昨日の名残だろうか。 つくづく、軽はずみな行動ってのはするもんじゃねェな・・・。


玄関へ続く角を曲がると、山崎は壁に張り付くように立ち、玄関への道を俺に譲った。
よしよし、コイツはなかなか反省してんじゃねェか。


が、そのままいざ待ち人の方へ目を移すと、そこには俺からその人を遮るようにその背にじゃれつく総悟の姿があった。



「ねーねー、何か土産ねェんですかィ?」

「んー? ふふっ、総悟がそう言うだろうと思って・・・」



座ってブーツを脱いでいた近藤さんが、傍らに置いてあった風呂敷包みを総悟に渡した。



「料亭の名物だっつー大福買ってきたぞ。」

「ホントですかィ?」



包みを受け取ると、総悟はそれを頭上へ掲げて広間の方へ走って行った。



「オイ山崎、茶ァ入れろィ!」

「え? あ、ちょ・・・待って下さいってー!」

「おーい、独り占めしないでちゃんとみんなで食べるんだぞー?」



・・・ここは幼稚園か。


俺は呆れ返りながら一人玄関に残された近藤さんの元へ歩を進めた。



「近藤さん」

「ん? おぉ、トシか。」



振り返って俺の姿を見とめた近藤さんは、律儀にブーツを揃えて立ち上がると俺の肩にポンと手を乗せて軽く揺すり、笑った。



「ただいま。」

「・・・おかえり。」



小さく微笑み返すと、肩に乗っていた大きな手が俺を引き寄せ、その唇が柔らかく重なった。



「んっ・・・」



そのまま腕が背に回り、体ごと抱き締められる。



「・・・何も変わり無かったか?」



唇が離れ、近藤さんは俺の肩に顎を乗せて呟くように訊いた。



「・・・ああ。」



俺が癇癪を起こした以外は。 でもそれは黙っておこう。



「寂しかった。」



ぐ、と一層強く抱き締められ、耳元に掛かる吐息にゾクゾクとしながらも俺は宥めるように近藤さんの広い背をさすった。



「・・・たった一晩だろ?」



ついまた強がりが出てしまった。 素直に寂しいと言えばいいものを。



「今度こういうの呼ばれた時は、トシも来いよ。」

「え・・・」



そりゃあそうしたいのは山々だけれど・・・



「同じ組織から二人も行ったって余計じゃねぇか。」

「でもメシだって布団だって、二人で一人前で大丈夫じゃん。」



そりゃあそう・・・って、外ではマズイだろ。



「とっつぁんにも頼んどいたから。」

「・・・え? ちょ、それは・・・」



俺はもぞもぞと動いて近藤さんの顔を見上げた。
ストレートなこの人のことだ。まさか今の発言をそのまま言ったんじゃあなかろうな。



「『ウチの自慢の副長も、皆にお披露目したい』って。」



俺の不安を見透かしたように、近藤さんはしたり顔で答えた。



「・・・こういう時だけ調子いいんだからな・・・。」



フッと笑みを漏らすと、その笑みの形をなぞるように大きな手が頬に添えられた。



「でも、嫌じゃないだろ?」

「・・・まぁ、近藤さんがどうしてもって言うなら・・・」



素直になれっての。 ここまでくると心底自分で自分が嫌になる。



「じゃあ、どうしても来なきゃダメ。局長命令な。」

「・・・了解。」



全く良く分かってるわ、この人は。 俺の扱い方を。



「・・・もう好きにしてくれ。」



アンタが傍に居てくれるなら、何だってしてやるから。

寂しい思いはさせないから。



「え? なになに、振り回し放題していいの?」

「・・・おう。」



言って、だらりとその体に寄り掛かってやると、その温かさにまた眠気が襲ってきた。



「ん? 眠いのか?」

「・・・まぁな・・・」

「じゃあ寝直すか。実は俺もあんまり寝てねぇんだ・・・」



折角トシがメールしてくれたのに。 と、近藤さんは申し訳なさそうに苦笑した。

いいんだよ。 無責任なことを言ったのは俺だ。



本当は、何だって「してやる」んじゃんくて、「させて欲しい」んだ。

寂しい思いをしたくないのは、俺の方だから。





(続)




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・・・あの・・・「後編」のくせにまだ続きます。(汗)


でもこの続きは「番外編」というか、最早出張とかもう全く関係ないどうでもいいエロ夫婦編なので。(をーい)

もういい加減にしろ、と思われた方はここで終わらせていただいて構いませんので。
エロにも付き合ってやるよ、という方はどうぞ続きもお楽しみに。


えーしかしまた出てきやがりましたね、沖山夫婦が。(←誰のせいだよ)
しかも夫、妻の目の前で堂々と浮気してます。妻、浮気相手が上司なので手が出せません。(笑)
そんな妻いぢめをやってればいいよおまいらは!!


あとやたら携帯が出てきてなんか・・・私別に携帯会社の回し者とかじゃないですよ?

機械音痴のくせに携帯ネタとかホント・・・。
あと「メールじゃなくて電話すりゃいいのに」というツッコミは無しの方向で。
いさおっちはトシたんに迷惑掛けたら悪いから・・・と控えめにメールにしといて、
トシたんはいさおっちの声を聞くとなんかもう色々なことが我慢できなくなりそうだから止めといた、ということでひとつ。