☆小説サンプル☆

何年経っても慣れない事務仕事を終えて気分転換にと縁側へ出ると、いつから降り出していたのか、薄灰色の
空から止めどなく落ちてくる雨の糸が庭先に幾つもの小さな水溜まりを作っていた。
(雨、か・・・)
雨の匂いは、昔懐かしき田舎の道場を思い出す。
梅雨の時期、汗ばむ顔にへばり付くうざったい湿気に顔をしかめながら、それでも番傘片手に木刀を提げて
休む事なくそこへ通って来てくれた、長い黒髪を高く括ったアイツの姿を。
足を泥だらけにしながら、着物に細かな雨粒を浴びながら、口では文句を言っていてもその顔はどこか嬉しそうで、
俺はそんなアイツの顔を見るのが大好きで、雨の日だろうが雪の日だろうが、道場の床を磨いてアイツが来るのを
待っていたものだった。  (壱・陽より)


近藤さんが湯を張ってくれた風呂から上がると、脱衣所の洗濯籠の中には着替えの下着と浴衣、そして御丁寧に
厚手の羽織までもがきちんと畳んで用意され、脱ぎっ放しにしてあったはずの雨でヨレヨレになった隊服一式は
シャツとスカーフだけを洗濯機の中に残し、すっかり片付けられていた。
(全く・・・面倒見が良いな、あの人は。)
大ざっぱで豪快に見えて、意外と細かい所まで目が行き届いている。
あの人の、そんなところが好きだ。
いつだったか、まだ道場に居た頃の話だが、近藤さんと二人で稽古をした後、そのまま道場の片隅で致してしまった
事が有ったが(「事が有った」どころか二人きりの時はまぁ、大体いつも・・・だったのだけれど)、その時、情事を
終えてすっかり脱力している俺の額に、突然ペタリと濡れ手拭いが落ちてきた。   (弐・陰より)


※実際にはフォントサイズ9の縦書き二段組になります。




☆イラストサンプル☆

    




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