僕が望む時は

いつだって傍に居てよ






  温もり、重なる   






時計の針は夕暮れ刻を指していたけれど、薄灰色の曇り空は茜色の夕日なんて届けてはくれなかった。


応接室の窓枠に肘をついて校庭を眺めると、微風と共に野球部やサッカー部といった連中がごちゃごちゃとひしめき合って
騒いでいるのが目に入り、僕は思わず目を細めた。

自然と、体の奥がムズリと疼く。
あんな風に群れ合い、馴れ合っている連中を見ると。


窓枠に預けた腕の先、左手の人差し指が知らず貧乏揺すりの如くアルミ製のサッシをトントンと小刻みに叩いた。

イライラするという感情は無い。
ただ、ズシリとした何とも形容し難い渦のようなものが喉の奥にこみ上げ、酷く気分が悪かった。



(あんな奴らじゃない。僕が視界に入れたいのは。)



それらを避けるように左の方へ視線を動かすと、校庭に石灰で引かれたトラックの上を走る人物があった。

色素の薄い短い髪。ライトグレーのナイロン地のジャージには袖に赤のラインが入り、バンテージの巻かれた拳が時折
見えない敵を打つように交互に前方へ突き出されては、まるで闇の中に二筋の炎が走っているかのような不思議な光景を生んでいた。



(あぁ・・・)



楕円形のトラックを孤独に黙々と駆けて行くその姿に、僕は喉の奥の塊がスッと降りていくのを感じた。



(彼は・・・いいな。)



群れてない。

笹川了平は、いつも一人、真っ直ぐに何かを見ている。


僕のように終始一人ぼっちで居るという意味ではなく、彼は誰と居ようが、最後にはそこに見えない何かと向き合っている。

それはきっとそこらに簡単に転がっていたりはしない、もっと崇高で深いもの──「自分自身」を見つめている。
そんな気がして、僕はそんな彼の凛とした眼差しに惹かれたのだ。




*****




「悪い、遅くなったな!」



ノックも無しにガチャリと勢い良く応接室の扉が開き、廊下の明かりを背に受けた彼──了平の姿が黒いシルエットになって現れた。



「ん? 電気を点けておらんのか?」



一瞬間が空き、手探りに扉横の壁を撫でた彼の指がパチリと蛍光灯のスイッチを押した。

とうに陽が沈み切って月明かりすら射し込まなかった室内を明るすぎるほどに照らした人工的な光に、闇に目が慣れていた僕は
反射的に目元を指の背で覆った。



「こんな暗い所に居ては、目が悪くなるぞ!」

「別に・・・君が居なきゃする事なんて何も無いし、明かりだって必要無いよ。」



革張りの回転椅子をキィ、と軋ませると、了平はフン、と溜め息をついて傍らのソファーセットに置かれた僕の学生鞄を手に取った。



「さぁ、帰るぞ。」

「・・・もう帰るの?」

「もう、って・・・既に7時を回っているぞ!?」



目を真ん丸に見開いて時計を指差す彼は、一目でその焦る気持ちが見て取れるほど感情表現が豊かで、僕とは正反対だといつも思う。



「そんな事言ったって、こんな時間までのんびり部活なんてやってたのは君だよ?」



意地悪く言って椅子をクルリと一回転させると、了平は益々焦りの色を濃くした表情でしどろもどろに言い訳を紡いだ。



「そ、それは・・・仕方ないだろう! 毎日のたゆまぬ努力が・・・その・・・明日へのパワーへと繋がって・・・」

「・・・ふーん。それで?」

「・・・だ、だから、つい時を忘れてトレーニングに熱が入ってしまったのだ!」



いつの間にか熱弁を振るう彼の拳は力強く握られ、踏ん張った足と共にファイティングポーズを決めたような体勢になっていた。



「そう・・・。そんなに好きなら僕の事なんか放っておいてもっと練習してればいいのに。」



僕はぶっきらぼうに言った。

無意識のうちにもそんなポーズに体が動いてしまうならば。



「それはできん!」



了平のファイティングポーズが解けた。



「こんなに暗い夜道をヒバリ一人で帰らせるわけにはいかん。」



握った拳は体の脇に、目だけは変わらず真っ直ぐ僕に向けられて。



「君・・・何か勘違いしてるんじゃないの?」

「何!?」

「僕はか弱い小動物じゃないよ?」

「そんな事は分かっている!」



腹の底から出される彼の声にビリビリと空気が震えるのを感じながら、僕はまた椅子を揺らした。



「じゃあどういう意味? まさか君が一人で帰るのが怖い、なんて言わないだろうね?」

「違う!!」



ライオンの如く吠え、了平はツカツカと僕の机の前まで歩み寄ってくると、胸の前で組んでいた僕の腕を解き、その手首をぐっと掴んだ。



「手を繋いで、一緒に帰りたいのだ!」



蛍光灯の光が、彼の目に反射してキラリと輝いた。



「そんなの・・・夜道関係ないじゃん。手を繋いでないと迷子になるとでも言いたいの?」

「そうではない。こうして帰れば暗い道でも寂しくないという事だ。」



了平の口元がニカリと笑いの形に曲がった。



「別に一人で帰ったって寂しくなんかないよ。寂しいのは君でしょ?」



僕の目は、きっとどんなに光を受けようとも彼のように輝かないだろう。

僕の口元は、きっとどんなに笑みの形を作ろうとも彼のように愛嬌など生まれないだろう。

その上、目の前に差し出された彼の優しさにさえ必要以上に強がって。



「あぁ、俺は寂しいぞ!」



手首を掴む了平の力が、更に強くなった。



「最初から一人で帰るものと決まっていれば寂しくはないだろう。しかし一緒に帰れる人が居るのにわざわざ一人になるというのは、
やっぱり寂しいではないか!」



掴まれた場所から、了平の掌の熱が伝わってくる。



「・・・そんなの君の個人的な考えでしょ? 自分勝手だね。」

「あぁ、すまん。」



別に謝らなくてもいいのに。


わがまま言って素直に君の優しさに縋らないのは僕の方なのに。



「さぁ、帰るぞ!」



ぐい、と彼の手に促されて、僕は腰を上げた。


でも・・・



「まだ帰りたくない。」

「何?」



また了平の顔に焦りの色が浮かぶ。



「こうして一緒に居られるものを、わざわざ家に帰る事で引き離そうっていうの? それ、さっき君が言った事と矛盾してるんじゃない?」

「む? ・・・ん、な、なるほど。そうだ・・・な?」



僕の言った言葉の意味を一生懸命考えている。


ごめんね、変なまどろっこしい屁理屈を捏ねて。

でも、やっと二人っきりになれたこの時間を、簡単には手放したくないんだ。




*****




「ん・・・」



二人掛けのソファーに寝そべって了平の頭を引き寄せると、彼は僕の髪を撫でながら優しく唇を重ね、吸ってくれた。



「・・・こんな時間までここを使っていて大丈夫なのか?」

「うん。先生達ですら僕らには怯えてあまり口出ししてこないんだ。だから好き勝手使い放題だよ。」



答えながら、僕は自分でシャツのボタンを外した。



「そうか。大層なものだな、風紀委員というのは。」

「そう? 僕がその委員長だよ?」

「あぁ、すごいぞ、ヒバリは!」



冗談のつもりで嫌味っぽく言ってみたのに、了平は素直に僕を褒めた。

彼にそう言われると、僕も素直に嬉しくなる。



「触ってよ。」

「あぁ。」



胸元のシャツを少し持ち上げて誘うと、バンテージの解かれた了平の手は遠慮なく僕の肌を滑った。



「あ・・・」



敏感な胸の突起を掠められて小さく声を漏らすと、彼はそこに唇を寄せてきた。


了平と交情に及ぶのはもう何度目かの事だったけれど、初めての時こそ戸惑いはあったものの、今では躊躇することなく愛撫を施して
くれるので、僕はなかなか彼に満足していた。



「ヒバリ・・・」



ぼんやりと身を任せている間にいつの間にか了平の手は僕のベルトを外して下肢にも及び、僕はズボンのポケットからコンドームの袋を
取り出して彼に渡した。

僕の家でする時は面倒だからそのまま中に出させてしまうけど。



「あぁ・・・」



受け取ったそれを装着すると、了平は僕のズボンを片足分だけ脱がせ、その脚を抱え上げて解されていた後孔を一息に貫いた。



「くっ・・・! ・・・は・・・」



女のように嬌声を上げるのは嫌で、声を押し殺しながら浅く呼吸を繰り返す。

そのせいで体に力が入って動く方の彼は辛いかも知れないけれど、それでも激しい律動できつい内側をこじ開けられるというのはなかなか
気持ちの良い感覚で、僕は前を握り込んでくれている彼の手の中に我慢する事なく熱い液を放出した。




*****




「歩いて帰るの面倒だから車呼ぶね。」

「何ッッ!?」



乱れた服を整えながら携帯を取り出して自宅の番号を押すと、ティッシュで手を拭いていた了平が異様に驚いた様子でこちらを振り返った。



「手を繋いで一緒に帰るのではないのか!?」

「そんな大きな声出さないでよ、恥ずかしいから。」



言って、僕は彼の拭いている右手を見つめた。



「勿論一緒には帰るけど、その手じゃ・・・」

「洗ってくる!!」



繋げない、と言葉を続ける前に、了平は吠えて廊下へ飛び出していった。



(そんなにこの手を繋ぎたいの・・・?)



車を一台手配するよう使用人に告げながら、僕は携帯を持っていない方の左手を蛍光灯にかざした。


トンファーを操る手と、ボクシンググローブをはめる手。

どちらも人を傷付け続けてきた手なのに、何がそんなに魅力的なのだろう。


通話を終えた携帯を握ったまま考えていると、了平が息を切らせながら戻ってきた。



「今職員室の前を通ったら、先生に『遅いからもう帰れ』と言われたぞ。」

「ふぅん。偉そうにねぇ。」

「あぁ、だから『じゃあ応接室に居るヒバリにも伝えておく』と答えたら、『無理して急がなくていいから』なんて途端にあたふたしておった!」

「そう・・・」



勝ち誇ったようなその顔に薄く笑みを漏らすと、彼はスポーツバッグを肩に掛けて改めて僕の鞄を持ち、空いた右手を差し出してきた。



「さ、行くぞ!」

「・・・今日だけだからね。」



携帯をポケットに仕舞いながら左手を少し前に出すと、了平は待っていたとばかりに手を伸ばしてそれを取り、満足そうにニッコリと
笑って僕を引っ張るように大股に歩き出した。



こんな手でも喜んで触れてくれる君がいるのならば、これからはもう少し、大事に扱ってみようか。





(了)




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わー、初書き了ヒバ小説でございました!!
ザザちゃんリクありがと〜☆


守備範囲外のジャンルだったので、楽しいけれど難しかった。
どういうシチュ、というかポイントを「萌え」として捉えればいいのかよく分からなくて・・・。(汗)

えー、とりあえずキャラ設定としては了平は天然ながらも意外とテクニシャンだったりして。中3のくせに!!(笑)
ヒバリは女王様?(笑) ヒバリの意地悪っぽい台詞考えるの楽しかったです。

あとヒバリ家は執事とかメイドとかいっぱい居る豪邸っぽい金持ち設定で。
エッチする時もヒバリ家だと思います。 笹川家は京子ちゃん居るしね。


でもそれら以前に二人の馴れ初めが謎ですね。
どちらから告白したのかとか、どんな所に惚れてどういう付き合いを望んだのかとか・・・。

詰めが甘くてスイマッセーン!!


では、ここまでお読みいただき有難うございました!
色々つじつま合ってなかったり設定のおかしい所は多々あるかと思いますが、どうか広い心で受け止めてやって下さ・・・い。(土下座)