ある時ある場所ある人達の

どーしょもない物語、始まり始まり






  白マヨ姫と七人のニート   第1話






私は登勢。

江戸の栄華を極めたこのかぶき町で四天王の一人と数えられる、美しい夜の蝶さ。

ただ、最近ちょっと気に入らない事があってねぇ・・・。



「オイ、鏡のお妙。かぶき町で一番綺麗なのは一体誰だい?」

「私ですぅ〜。」



私の経営するスナックの従業員・キャサリンが何処からか拾ってきたこの鏡、どうやらこれは何やら魔力を秘めているらしく、話し掛けると
こんな風に若い娘の顔が現れて会話なんかが出来るのだけれど──このお妙という娘、どうも癪に障るような事しか言わないんだよ。



「お妙、ふざけでないよ。かぶき町で一番綺麗なのは誰だい?」

「じゃあ私が一番なのは殿堂入りとして、二番をお教えしますぅ〜。」

「・・・まぁいいだろう。で、誰だい?」

「トシ子さんですぅ〜。」

「・・・何だい、トシ子だって?」



私はカウンターの内側、酒瓶の並ぶ棚の脇に掛けていた鏡から目を背け、やや離れた隅にあるテーブルセットの椅子に腰掛けてつまらなそうに
ホウキの柄をいじっているもう一人の従業員──継子であるトシ子を見遣った。



「オイトシ子、サボってないでちゃんと掃除をおしよ。」

「・・・メンドクセーなー。」



ポニーテールに括った艶やかな黒髪、長い睫毛が覆う向こうに鋭さを持つ瞳、化粧をしなくとも紅く色付く柔らかそうな唇、ハリのある雪のような
白い肌──ふてぶてしく腰を上げたトシ子はややガサツで男勝りな所があるけれども、確かに風貌だけ取ってみれば誰もが認めるだろう美人だった。


まだ二十歳にも満たないトシ子には、最早私が失って久しい──「若さ」があった。



「・・・なるほどねぇ。じゃあもし仮に、あの子が居なくなったとしたら──その二番目の座に着く、ってのは私かィ?」

「そうですね〜、まぁ話の展開を考えてそういう事にしておきましょうか。」



・・・ったく、ホントにこの娘は口が良いんだか悪いんだか・・・。




*****




「何だよお登勢、久し振りに呼び出したと思えば・・・」



スナックお登勢のカウンターでダンディーにグラスを傾けてみるこの俺は、闇を生きる殺し屋──松平片栗虎。

まぁ「闇を生きる」なんつっても、普段は愛する母ちゃんや娘なんかとフツーにブラブラ街を歩いたりもする、一見すれば何の変哲も無いちょいワルオヤジ
というところなのだが。



「アンタを呼んだのは他でもないよ。仕事の依頼さね。」

「仕事?」



お登勢と俺は幼馴染というか腐れ縁というか、まぁ昔の事はさて置くとして今に関して言えば、奴の顔の広さを利用してターゲットの身辺に関する
情報収集なんかをして貰う、一種の仕事仲間に近い間柄であるのだが──仕事、つまり早い話「殺し」そのものの依頼を受けるなんてのは初めてだった。



「・・・で、誰を殺れってんだ?」



氷に冷やされたウィスキーを一口含んで訊くと、もう他に客も居ない明け方近くの店内を、それにも関わらず改めて誰も居ない事を確認するように二、三度
見渡してから、お登勢は口を開いた。



「トシ子だよ。」



低く落とした声で短く言い放たれたターゲットの名は、俺もこの店の前を通る度によく見かけている、奴の継娘の名前だった。



「・・・またどうして?」



普段は依頼人の事情もターゲットの事情も何ら考慮に入れずただただ仕事を遂行するプロの俺だが、こんな──俺自身も少なからず思い入れを持つ顔見知り
をターゲットにした殺しとなると──若干の迷いが頭を掠めた。



「・・・別に深い理由なんかないさ。」



金糸で刺繍の施された豪奢な着物の袂から煙草を取り出し、胸の深くまで吸い込んだ白い煙を細く吐き出す。



「気に入らないんだよ、あの娘。あの美しさ・・・」



ぼんやりと遠くを見つめて呟くお登勢の視線が、フッと俺に戻される。



「アンタも知ってんだろう? 私は嫉妬深いのさ。・・・それだけ聞いたら、後は察しとくれよ。」

「・・・あぁ。」



変わっていない。 コイツの行動は昔から、己の信念に単純明快。

ためらいも後悔も宿さぬそのきっぱりとした生き方に惹かれて、俺は今日までコイツと何十年という付き合いを保ってきた。


けれど・・・



「・・・で、いつ殺りゃあいいんだ?」

「任せるよ。アンタの都合のいい時に、都合のいい方法でやってくれりゃあさ。」

「んじゃあ・・・夜が明けたら早速やらせて貰うか。」

「上等じゃないかィ。」



微塵も動じず妖しく笑う瞳に、俺は飲み込まれまいと──こちらもサングラスの奥を光らせて笑みを漏らした。




*****




「よぅ、トシ子ちゃん。」

「ん。」



うららかな昼下がり、時折吹き抜ける冷たい風にカシミヤのマフラーをグルグルと巻き直しながら、俺は店の表に散る落ち葉を掃き集めていた
トシ子ちゃんの背に声を掛けた。



「・・・あぁ、えーっと、確か松平の・・・」

「『とっつぁん』でいいよ。」



一方的に度々見掛ける事は多かったが、こうして面と向かって話をするのは実はまだ数える程だ。

やや大人びたシックな黒い着物に身を包んだトシ子ちゃんは、俺の言葉にはにかんだように顔を綻ばせ、「とっつぁん」と呟いた。



「バーさんに用か?」

「ん、いや・・・今日はちょっとトシ子ちゃんに会いたくてなぁ。」

「俺に?」



お姫様のように可愛い顔をしながら、トシ子ちゃんは自分の事を「俺」と呼ぶ。



「ちょっと──今、抜けられねェかな?」

「うーん・・・待って、バーさんに聞いてくる。」



言って、トシ子ちゃんは持っていたホウキを壁に立てかけると店の中へ姿を消した。

泣く子も黙る「かぶき町四天王」の一人と崇め恐れられるお登勢を「バーさん」呼ばわりできるってのも、きっとトシ子ちゃんだけだろう。



「お待たせ。別にいいってさ。」

「そうか、じゃあ行こう。」



何も知らない、単純に仕事を抜けられる嬉しさに無邪気に笑うトシ子ちゃんを連れて、俺は人気の少ない路地を目指して歩き始めた。



「珍しいな、とっつぁんがわざわざ俺に会いに来るなんて。」

「フフ。オジさん可愛こちゃんの為なら時間だって何だってひょいと作り出しちゃう自由人だからね。」

「はぁ? 何だよそれ、変な事言って・・・・・ところで、一体どこ行くんだ?」

「まぁまぁ、着いたら分かるよ。」



不思議そうに顔を見上げてくるトシ子ちゃんと極力目を合わせないようにしながら、俺は古びた空き長屋の立ち並ぶ路地に彼女を連れ込んだ。



「この辺、とっつぁん家?」

「まさか。オジさんはもっとデカくて立派な家に住んでるよ〜?」

「じゃあ何で・・・」

「どうやってオジさんがそんなに稼いでるんだか──」



言いながら、それとなくトシ子ちゃんを袋小路に追い込む。



「その仕事っぷりを・・・見せてあげようと思ってなぁ。」



分厚い黒のコートの前を細く開き、その懐から徐に拳銃を取り出して見せると──トシ子ちゃんのくっきりとした二重の双眸が丸く見開かれた。



「・・・とっ・・・つぁん・・・?」

「悪ィなぁ、オジさん殺し屋さんなんだよ。」

「そん・・・な、何で・・・」

「依頼されたんだよ、お登勢の奴に。」

「とせ・・・? っ、バーさんか!」



怯えに震えていたその目が、お登勢の名を聞いた途端に射るような鋭さを帯びる。



「アイツ・・・そこまで俺の事・・・」



悔しそうに歯を剥き、袂から覗く華奢な白い手がグッと拳を握り──しかし暫くの後、ゆっくりと開いた。



「・・・バーさんは、アンタにいくら積んだんだ?」

「あァ? ・・・そーいや金の事はまだ取り決めてなかったなぁ。まぁ、」

「俺を殺す事が・・・それがアンタの仕事だってんなら・・・殺せばいい。ただ──」



澄んだ真っ直ぐな瞳が、こちらを向く。



「ただ大人しく殺されたんじゃあ、俺の気が済まねェ。俺もアンタに依頼する。」

「あン?」

「俺を殺したら、その足ですぐバーさんも殺しに行ってくれ。金なら──」



拳を解いたその手を、綺麗な膨らみを形作る胸にそっと当てる。



「この着物、死んだ母親の形見だが・・・100万は下らない筈だ。だから──」



スラリとした体がこちらへ歩み寄り、俺の向ける銃口をその額にピタリと宛がった。



「この着物汚さねーように、一発で仕留めてくれよな。」

「・・・!」



大した娘だ。

銃を掴む手も、俺を見上げる瞳も、真一文字に引き結んだ唇も、地面を踏みしめる足も、まるで震えていなかった。



「・・・安心しろ、殺しゃしねーよ。」

「え・・・?」



銃に似合わない細い指をやんわりと引き剥がし、俺はその銃を再び懐へ収めた。



「逃げろ。・・・いくらお登勢の頼みだからって、お前さん殺すなんてやっぱり俺にゃあできねェ。」

「・・・で、でも・・・」



張り詰めていたトシ子ちゃんの顔が、呆気に取られたように女の子らしい柔らかさを取り戻す。



「そんな事したらとっつぁんが・・・」

「あぁ、奴の目ァ本気だったからな。」



俺は左手を、今度は銃を収めていたのと反対側の右懐へ差し込み──一丁のハサミを取り出した。



「だから悪ィが、ちょっくら偽装工作させてくれ。それに、ある意味お前さんの為でもある。」

「え?」



銀色に輝く鋭利な刃先に、トシ子ちゃんの顔が再び強張る。

俺はそんな彼女に歩み寄ると、ポニーテールの元結を解き、その綺麗な長い髪にハサミを入れた。



「やっ・・・!」



バサリと肩に落ちた毛の束に、トシ子ちゃんは反射的に頭を押さえて微かな悲鳴を上げた。



「この髪をなんとか証拠だと言い張る。そんで殺した事にする。」

「・・・そ、そんなんで・・・」

「それに、逃げる所を下手に目撃されたりしても具合が悪ィからなぁ・・・」



ジャキジャキと軽快にハサミを入れながらも、もしこれが愛娘の栗子だったら──と、年の近いトシ子ちゃんに憐れみの念は禁じ得なかった。

が、そのように思って尚このハサミを止められないのは、それだけこの娘を大切に思う故でもある。
なんとしてでも、安全に逃がしてやらなければ──



「・・・ヨシ、まぁ素人の腕だが──こんなモンでいいだろ。」



ボーイッシュに短くなった髪に恐る恐る手を伸ばすトシ子ちゃんを横目で見ながら、俺は身に着けていたマフラーとコートを脱いだ。



「コレ着とけ。その頭でコレ着てりゃあ、パッと見女には見えんだろう。」

「とっつぁん・・・」

「靴も変えた方がいいかなぁ。その草履じゃ違和感が・・・」



コートを羽織らせ、口元辺りを隠すようにマフラーも巻かせてから、俺は履いていたブーツを脱いでそれも彼女にやった。



「とっつぁん・・・こんなにして貰って、俺・・・」

「なーに、可愛こちゃんの為ならオジさん何だってするって言ったろぅ。」

「っ・・・別に・・・」



男勝りなみなしごだっただけに褒め言葉なんて言われ慣れていないのか、上目遣いに俺を見上げるその頬が恥ずかしそうに赤く染まる。

・・・あぶねェあぶねェ、冷静になれ、俺。



「ま、まぁとにかく・・・一刻も早くお登勢に気付かれない所へ逃げた方がいいな。」

「でも、俺行く当てなんて・・・」

「それなら心配いらねェ、俺の知り合いンとこを紹介する。」



スーツの懐から手帳を取り出し、メモページに簡単な地図を書いて破り渡す。



「かぶき町の外れに『万事屋銀ちゃん』って店がある。いい加減な奴らの溜まり場みてェなボロ屋だが・・・まぁ信用は出来るから安心しろ。」

「万事屋・・・?」

「あぁ、銀髪モジャモジャ頭の男が頭目だ。そいつに俺の名を言やァあとはなんとかなる筈だ。」

「・・・分かった。」



コクリと頷き、トシ子ちゃんはメモ紙をぎゅっと握り締めた。



「・・・じゃあ先に行け。俺ァこの髪の毛掻き集めねェと・・・」

「うん、とっつぁんも・・・どうか無事でな。」

「オウ、任せとけ。」



黒髪の散らばる地面に屈み込むと、トシ子ちゃんは俺の横をすり抜けて走り出した。



(あの娘なら大丈夫だ。)



遠ざかる足音を聴きながら、俺の頭には何故だか根拠のない自信が──しかし晴れ晴れと、広がっていた。





(続)


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ハードボイルドォォォォォーーー!!!(笑)

お登勢さんととっつぁんのやりとりを書くのがとにかく楽しかったです。熟年カップル・・・。
源外×登勢とかとっつぁん×登勢とか地味に好きです。銀登勢も好きですけどね。


・・・と、そんなカプ語りの前にご説明せねばですね。

本作はRUSHI様よりリクエストいただいた「白雪姫パロ」です。
一応底本はデ○ズニー版で、これから七人の小人ならぬ七人のニート(というかダメ人間?)が登場します。
選ばれし七人が誰になるのかはお楽しみに・・・!(笑)


あ、ちなみに今回の登場人物だけでも改めて説明しておくと

お登勢→女王、キャサリン→オリジ、お妙→鏡、とっつぁん→狩人、トシ(トシ子)→白雪姫

でした。


パロり過ぎでスイマッセーン!