この隊服があの人を包む限り

俺はいつだって傍にいてやる・・・けど・・・






  隊






・・・ったくとっつぁんの考える事は良く分からねぇや。


幾ら悪友のような関係だからって天下の将軍様をキャバクラに連れてくる警察庁長官がどこにいるってんだよ。

俺だったら、キャバクラなんてどうでもいい。
ただ夜が明けるまでずっと馬鹿話でもし合っていられるような・・・そんな奴が悪友ってもんだよ。



この・・・俺の右隣にいるような・・・



クシュン。



そんな事をつらつら考えていると、刹那に通りを吹き抜けた風に鼻先をくすぐられ、俺は思わずくしゃみをした。



「ん? トシ寒いのか?」

「んあ? あぁ・・・いや・・・」



心配そうに顔を近づけてくる近藤さんを片手で制すると、俺はグズグズと鼻をこすりながら、くしゃみをした拍子に地面に落としてしまった
煙草を拾おうとその場にしゃがみこんだ。



(あ〜あ、何やってんだか・・・)



懐から携帯灰皿を取り出して吸殻を仕舞うと、立ち上がりざまにフワっと何かが背中に掛かった。



「あ?」



背を曲げたまま振り返ると、ニコニコと笑顔を見せる近藤さんが隊服の上着を脱ぎ、それを俺の肩を包み込むように巻きつけていたのであった。



「オ、オイ・・・何してんだよ、寒いだろ?」



夜風にさらされるシャツ一枚の腕が寒々しくて、俺は慌てて掛けられた隊服を剥ぎ取った。



「俺は平気だよ。トシ掛けてろって。」

「でも・・・」



言いながら、俺は周りの隊士達がクスクスと笑っているのを耳にしていた。



「オイオイあんな事しちゃってるよあの二人は。」


そんな嘲笑ならまだよかった。



しかしアイツらは


「また始まったよ。」


そんなほほえましい光景を見るような目で、俺達を見ていた。



それがなんだか余計に俺の羞恥心を募らせ、俺はいつになく近藤さんの優しさに抵抗を見せていた。



「ホラ、いいから着てろ。」



しかしついに隊服の袖を体の前で結ばれ、俺は身動きが取れない状態にされてしまった。



「オイ、やめろって。皺になるから・・・」

「いいのいいの。じゃ、俺ちょっと向こう見てくるから。」

「ちょ・・・オイ!」



軽く簀巻きのようにされたまま、俺は一人ポツンと残された。



(・・・ったく・・・)



いっそう大きくなる笑い声に、俺はぼおっと顔が赤くなる思いだった。



(あ〜あ・・・)



俺は心の中で溜め息をつき、薄曇りの夜空をボンヤリと見上げた。



煙草が吸いたい、とふと思ったけれど、身動きが取れない上、近藤さんの隊服を身に纏っているのだと思うと、その気もすぐに失せた。


近藤さんの隊服に、煙草の煙を吸わせたくないな、と思った。


まっさらなままが、あの人なのだから。


いくら黒い布地だからといって、この隊服を汚させたくなかった。



どんな煙も、埃も、泥も、血も、あの人に降りかかりそうになるものは、全部俺がかぶってやるから。



いつか近藤さんが撃たれた時から、俺の中に据わるその思いは、いっそう強くなっていた。



俺の肩より一回り大きい隊服が風を受け、長い裾が腰に差した刀をカチャリと揺らした。



あたたかかった。



近藤さんの残したぬくもりが、俺の中から新たに沸き起こった熱を逃がさず包み込んでくれていた。



(あ。)



ふと結ばれた袖に目を落とすと、左袖のカフスボタンがほつれかかっていた。



(後で縫い直してやるか。)



喉の奥でクスリと笑うと、戦車の向こうから聞き覚えのある情けない声が聞こえてきた。



「トシィ〜、やっぱ寒ぃわ〜!!」



顔を上げると、腕をさすりながらガタガタと震える近藤さんが半泣きで駆け寄ってくるのが見えた。



「だからいいって言ったろ。風邪引くぞ。」

「うぅ・・・ゴメンナサイ・・・」



一旦止んでいた笑い声が、またどこからともなく湧き上がった。



「ホラ、早くこの結び目取れよ。俺動けねーんだから。」

「う〜・・・手がかじかんで上手く取れねーよ・・・」

「はぁ? ったくしょうがねーなぁ・・・」



俺はなんとか身を捩って頭の方へ隊服を抜くと、固結びにしてあった袖を解いて近藤さんに着せた。



「あ〜あ、やっぱりこんな皺になっちまって・・・」



肘の辺りを伸ばすようにこすってやると、近藤さんはへらっと笑って俺を見た。



「トシの熱が残ってて・・・あったかい。」

「・・・そーかよ。」



俺は途端にまた恥ずかしくなって近藤さんから手を離し、照れ隠しに懐から煙草を出して火を灯した。



「トシ寒くねーか?」

「あぁ? ・・・平気だ。」

「なんだったら後ろから抱き付いててやろうか?」

「! ・・・い、いらん!!」



またクスクスと笑い声が聞こえる。 今度は近藤さんの声も混じって。



あぁ・・・やっぱりこんな悪友いらねーかもしれねーなぁ・・・。



こんなにドキドキさせられちまってたら心臓がもたねーっつーの。




しかし突如一糸纏わぬ姿で現れた将軍様にさらに心臓をバクバクさせられたのは、このほんの2・3分後のことだった。





(了)




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ハイ、アフォばかり〜。(笑)


初めて本編とリンクさせた話を書いてみましたが、やっぱりゼロから書くよりは
いくぶん書きやすい感じがしました。

近土は相変わらず、というところですが。(笑)


しかしこの回に出てくる将軍様は凛々しくて格好良かったですよね〜。
クサイって言われて泣いちゃうところもまたイイ。(笑)