俺じゃない俺を見せたら、オマエじゃないオマエも見れんのかな。
別に見たくもねーけど、なんか、気になった。
手
「痛ったァァァーーー!!」
甲高い叫び声が、家庭科室に響いた。
「指切ったアル! 血ィ出たアルよコンチクショー!!」
「神楽ちゃん大丈夫!?」
痛みに暴れ回るチャイナ娘に、志村姉弟の姉の方・妙が駆け寄った。
女子共の同情の声の嵐の中、シュッと風を切る音を感じたかと思うと、ドツッ、という鈍い音と共に、俺の左手に小さな衝撃が伝わった。
「・・・これァ・・・」
見ると、今まさに俺の手でもってカレーの具材にされるべくまな板の上に載っていたニンジンに、鈍色の包丁の刃が斜めに突き刺さっていた。
「お? チャイナ娘からの愛の贈り物か?総悟。」
「黙ってろィ。このニンジンの二の舞十四郎になりてーんですかィ?」
うざったいマヨラー男を一蹴すると、鍋を掲げて俺に襲いかかろうとするソイツとそれを羽交い締めにして止めようとする近藤さんを尻目に、
俺はチャイナを取り囲む人だかりに目をやった。
「アラアラ、大変! 保健委員さんは?」
家庭科教師の呼びかけに、俺の隣の調理台にいた猿飛が手を挙げた。
「ハイ、私です。 じゃあ神楽さん、保健室に行きましょうか。」
「・・・あの・・・猿飛さん? そこは食器棚よ?」
「え? アラ、そういえばメガネが無いわ。 メガネメガネ・・・」
ガシャガシャと食器が棚から滑り落ちていく音に、新たな悲鳴が沸き起こった。
「ちょっ・・・猿飛さん! やめてェェェー!!」
「先生。」
俺は手を挙げ、チャイナのいる調理台の方へ歩み出た。
一瞬、チャイナが俺の事を見た気がしたが、俺は構わず教師に目線を合わせたまま続けた。
「俺が連れて行きまさァ。」
「嫌アル!」
俺の発言の0コンマ1秒後・・・かどうかは知らねェが、言い終わるかどうかといううちに、チャイナの口はもう拒絶の言葉を吐き出していた。
「え・・・と、沖田君も保健委員さんなの?」
「違うヨ! コイツは風紀委員アル。何でこんな関係無いサドに私が連れてかれなきゃならないネ!」
目には涙を浮かべたままの癖しやがって、やたら眉間の皺ばかり深めてチャイナは怒鳴るように答えた。
「関係あらァ。俺も怪我したんだぜィ。さっきテメーがどさくさ紛れにブン投げた包丁のせいでな。」
俺は左手をチャイナの眼前に突き付けてやった。
痛みは殆ど無かったが、人差し指の付け根辺りには2センチ程の切り傷が血を滲ませていた。
「フン、そんな糸ミミズみたいな傷が何アルか。私もっと深い怪我したネ!」
言って、チャイナも俺の目を突き刺さんばかりに左人差し指を掲げた。
見ると、確かに俺のものよりも深そうな傷が、手の甲の方にまで血を滴らせていた。
「マジかィ。じゃあ早く手当てしねーとな。」
俺はチャイナの油断している隙にその指を握り込むと、そのままズルズルと廊下まで引き摺りだした。
「ちょっ・・・離すネ! カンセツ抜けるアル! 血ィ止まって指が腐ってもげるアル!!」
「もげるかよ。こんぐらい強く止めとかねーと血ィ流れ続けるぜィ、この傷じゃァ。」
俺はチャイナの指が打つドクドクとした脈を掌に感じながら、ピンク色の肉が覗く傷口をまじまじと見詰めた。
「ちょっ、あんま顔近づけんな。鼻息掛かるヨ。」
「うるせーなァ。鼻水掛けられてーのかィ?」
「おま・・・それサド通り越してただの変態アルヨ。」
そんなくだらないやりとりをしているうちに保健室に着くと、そのドアには「出張中」と書かれたプレートが掛けられていた。
「・・・誰もいねーのかィ?」
取っ手に手を掛けて横に引こうとしても、施錠されたドアはガタガタと揺さぶられるだけだった。
「仕方ねーなァ。 ヨシ、チャイナ蹴破れ!」
「ほあちゃあぁぁぁー!!」
バコン、と大きな音を立てて、鍵の吹っ飛んだドアは保健室の中へ倒れ込んだ。
「・・・ホントにやるか? 普通・・・」
「っ!! ちょ、何言ってるアルか! テメーがノせたんだろーがァァ!!」
胸倉に掴みかかってきたチャイナの顔が思ったより焦りの色を濃く出していたので、俺はついその珍しい顔をぼんやりと見詰めてしまっっていた。
「あ゛〜、もうどうするアルかぁ〜?」
「落ち着けィ。誰か他の奴が来る前にずらかりゃあイイ話だ。 ヨシ、ここは物盗りの犯行に見せ掛けるために部屋を荒らせィ。」
「ふあちゃあぁぁぁ!!」
机の上に整理されて置かれていた本やファイルがメチャクチャに散乱し、新鮮な花の生けられていた花瓶は嫌な音を立てて水と破片を撒き散らした。
「・・・だからホントにやるか? 普通・・・」
「オイイィィィ!! どーすんだ? 早くタイムマシンを探さないと・・・!」
「落ち着けィ。」
俺はチャイナの肩を掴んで椅子に座らせると、流しに置かれていた洗面器に水を汲んだ。
「俺達ァ怪我の手当てをしに来たんだろィ? 早くこの水でその猟奇的な手を洗いな。」
言うと、チャイナは思い出したように血まみれになった手を見詰め、次に同じように俺の顔を見詰めると、おずおずとその手を水につけた。
「・・・なんかオマエらしくないアル。この水、毒溶かし込んでないだろーネ?」
「そんな細かい芸当してる場合じゃねーだろィ?」
俺は薬箱を漁り、消毒液や包帯の類を見つけ出すと、チャイナの向かいに座った。
「ホラ、手ェ見せな。」
ティッシュで綺麗に拭かれた白い指先を引き寄せると、チャイナはビクリとその手を引っ込めた。
「・・・オイ、」
「自分でやるヨ。・・・サドも、自分の怪我見るヨロシ。」
チャイナは俺の手から消毒液を奪い取ると、心なしか慌てた手つきでボトルの中身を指に振りかけた。
「うっ・・・ぎゃああぁぁぁー!!」
「オ、オイ! バカ、かけすぎだィ。」
俺は急いでチャイナの手からボトルを取り上げた。
「何だコレ!? しみるヨー! オイサド! おめっ私に塩酸渡したアルネ!?」
「バカな事言うなィ。そんな深い生傷に消毒液ぶっかけたらしみるに決まってんだろィ?・・・あーあー、スカートにまで零しちまって・・・」
「さわるなァァァーー!!」
ティッシュを引き出して膝辺りを拭いてやろうと身をかがめた俺は、顔面を激しく蹴飛ばされて背後に散乱していたファイルの上に倒れ込んだ。
「・・・ってェなァ!! 何しやがんでィ。」
「それはこっちの台詞アル! レディーのスカートいきなりめくろうとする奴がどこにいるネ!」
「めくろうとなんてしてねーだろうがァァ! 濡れてたから拭いてやろうと親切心見せただけだろィ?」
「何が『親切』ネ! 変態サドのくせに似合わねーことすんなヨ気持ち悪い!!」
「っ・・・」
気持ち悪い・・・か。
俺だって気持ち悪ィよ。 自分が何でこんなウルセーだけのチャイナ娘を助けてやろうとしてんだか、とんと理解できねーよ。
「・・・サド? どしたネ・・・?」
でもなァ・・・、なんでかわかんねーけど放っとけねーんだよ。
オマエが動くと、意識してもいねーのにオマエを目が追っちまうんだよ。
「・・・ゴメン、ちょっと言い過ぎたヨ。」
「うるせー黙れ。」
俺は尻餅をついたような体勢から立ち上がると、改めて脱脂綿に薬液を染み込ませ、ひざまずいてチャイナの傷を丁寧に拭った。
「っ!・・・ィタ・・・」
「我慢しろィ。」
ガーゼを小さく切って傷口に当て、上から包帯できっちり巻いてやると、チャイナはやっと一つ溜め息を漏らして、その指をピコピコと動かした。
「なかなかやるアルナ。オマエただのサドかと思ってたけど、そうでもなかったネ。」
「・・・褒めてんのか? それァ。」
俺は自分の傷口に、消毒もせず無造作に絆創膏を貼り付けた。
「褒める・・・っていうか・・・」
「『礼』か?」
振り返って訊くと、チャイナは俺を見て恥ずかしそうに笑った。
「そんなトコアル。」
「ふーん・・・可愛くねーの。」
ゴミを投げ捨て、保健室を出ようとすると、チャイナが俺の胸の前に立ちはだかった。
壊れたドアの上に立っていた分、奴との身長差は5センチほど縮まっていたが、それでもその頭は俺の顎辺りにあって、うつむきがちのその表情を
見て取ることはできなかった。
「何でィ。早く出ねーとコレやったのが俺らだってバレるぜィ。」
コレ、と後ろにしゃくった顎を戻すと、うつむいていたチャイナの頭がニヤリと口元を歪めて俺を見上げていた。
「・・・何でィ。」
「この傷治ったら、礼に弁当作ってきてやるヨ!」
普段見せることのないような屈託の無い笑顔に、俺は危うく動揺を顔に表すところだった。
「いらねーよ。オメー絶対不器用だろ。なんかそんなオーラがギュンギュン出てんぜィ。」
「んな事ないアル! タコさんウインナーだって上手に作れるネ!」
「タコさんウインナーを作れる奴はカレー作るごときで指なんか切らねーよ。」
俺はチャイナを押しのけ、まだひっそりとした授業中の廊下へ出た。
「違うネ! 今回はイモが悪かったヨ。イモが私の手からエスケープしたネ!」
相変わらずの甲高い声が廊下に響いている。
「ウインナーはイイ奴ヨ。おとなしく私の手に収まってタコになるネ!」
楽しそうに話しやがって。
・・・と、ふと窓ガラスに目をやると、柄にも無くニヤけた俺の顔が映っていた。
(・・・気持ち悪ィ。)
咄嗟に顔の筋肉をほぐすように左手をやると、それまで何ともなかった傷が初めてチリッと痛み、それに伴ってどうでもいい疑問が脳裏に起こった。
(チャイナの奴・・・何で俺が風紀委員だって覚えてたんだ?)
あのホームルームの時間、奴ァ弁当食ってさっさと寝ちまってたはずなんだけどなァ。
(了)
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ハイ、初書き沖神小説でございました。
んーなんだろうね! 書いてて楽しかったことは楽しかったのだけれど、まだイマイチ二人のキャラが掴めてません。(汗)
ってかコイツら中学生!?(笑) 私の中では「3Z=高校生」なのですが、この二人の場合はなんか中学生っぽくなってしまいますね。
なんか少女漫画的展開だし・・・。
この二人、お互いを好いているのかどうかは皆様それぞれの判断に委ねませう。
・・・っていうか、これタイトル「手」でイイのかなぁ?
色んな要素混ぜ込み過ぎて収拾つかなくなってる気も・・・。(笑)
しかもそごちゃんは何か訳分かんない擬音語駆使してるし。(爆)