☆小説サンプル☆
いつからだろう。この胸の疼きを恋だと悟ったのは。
あの人の全てを俺の手の内に独り占めしたいと、こんなにも強く思うようになったのは。
出会った頃よりも随分高くなった背丈は、すらりと長くなった手足は、剣を強く握れるようになった掌は、
それでもあの人の大きさには到底敵いやしないけれど、あの人に抱きついて、組み伏せて、俺だけをその目に入れて、
どこへも行かないようにしてやりたいという束縛欲だけは、人一倍強く育った気がする。 (弐・黒より)
遠ざかる足音を、それが完全に静寂になるまで聞き終えてから、俺はゆっくりと目を開けた。
(総悟の奴・・・)
触れたのは、確かに唇だった。
しっとりとして少し冷えた唇と、そこから差し出された幾分温度の高い舌の感触が──まだハッキリと、ここに残っている。
あまりにも突然だった出来事に、つい目を開けるのも怖くて寝たふりを決め込みその場をやり過ごしてしまったけれど──
総悟は一体、何の用事があったのだろう。
まるで鼓膜を直に叩かれているようだった心臓の鼓動の向こうで、微かに何かが滑るような音がしていたのだが・・・。 (肆・白より)
よく整備されたオフィス街を抜け、雑然とした街並みのかぶき町に足を踏み入れる。
丁度飲食店やキャバクラの類が賑わい出すこの時間、街は厨房やエアコンの室外機から漏れ出す胸焼けのするような熱気に溢れ、
俺は息苦しさを感じながら空を見上げ、夜の薄藍色と暮れ残る夕焼けの紅が入り混じった何とも言えない色に、気を紛らした。
(それと苦しい理由は、もう一つ。)
屯所で待つあの人と、どんな顔をして会えばいいのか分からない。
散々「好きだ」と冗談めいて繰り返してきた俺には、もうこの思いの真剣さを伝える行為は接吻と・・・あとは体の交わりしか
残ってないのに。それが接吻であれだけ苦しんでいたら、もう俺はどうすりゃいいんだか──。
渦巻く煩悶と熱風に、吐き気がする。眩暈がして、目の前が霞む。
雑踏の中、霞む視界に躍り出たのは──鮮やかな赤の、チャイナ服。 (漆・黒より)
※実際にはフォントサイズ9の縦書き二段組になります。
☆イラストサンプル☆
↑「サンプル」というか・・・ほぼ全部見せです。(笑)
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